休職・復職の判断
主治医が「復職可」と書いた方に、私が休職の延長をお伝えする理由
結論からお伝えします。私は、主治医から「復職可」の診断書が出ている方に対しても、休職の延長が必要だとお伝えすることがあります。厳しくしたいからではありません。駆け出しの頃、応援する気持ちで復職を許可した方々の多くが、再発して戻ってこられたからです。
この記事は、社員が増えてきて、はじめて休職者の対応をすることになった人事・労務のご担当者に向けて書いています。
私が「応援したい気持ち」で判断していた頃
産業医を始めて間もない頃の話です。
主治医から「復職可能」と書かれた診断書が出てくると、私は面談をしたうえで、復職の許可を出していました。ご本人は戻りたいと言っている。主治医も可と言っている。であれば、背中を押すのが自分の役目だろうと思っていました。
ところが、そうしてお戻しした方々のほとんどが、しばらくして再び体調を崩し、もう一度休職に入られました。
これは、私にとってかなりこたえる経験でした。応援したつもりが、結果としてその方を遠回りさせていたからです。ただ応援することだけが、その方のためになるわけではない。ここから私は、自分なりの基準を持つようになりました。
この領域には、まだ質の高い研究がありません
先に、正直なことを申し上げておきます。
休職期間や復職判断の領域には、まだ質の高い研究が存在しません。日本産業衛生学会関東地方会の「復職ガイダンス2017」でも、採用基準を満たすエビデンスがないため推奨を出さない、と明記されています。
つまり「何日休めばよいか」「どうなったら戻せるか」には、教科書の答えがないのです。
だからこそ私は、自分の現場で使える物差しを持つことにしました。これからお伝えするのは、私が3,000名以上の復職に関わってきた中で作ってきたものです。研究として形にするのはこれからで、まだ発展途上であることも、あわせて申し上げます。
なぜ「眠れていますか」と聞かないのか
私が主に見ているのは、睡眠と食欲です。うつ病が良くなりきらないときに残りやすい症状として、一般にこの2つが挙げられます。
ただし、聞き方を変えています。
「眠れていますか」と尋ねると、返ってくるのはご本人の所感だけです。「まあ、それなりに」「だいぶ良くなりました」。この答えからは、先月と比べてどうなのかが分かりません。
そこで私は、あえて数字で伺うようにしています。10点満点で、今は何点か。食欲であれば、人生でいちばん食欲があったときを10点として、今は何点か、という聞き方です。
数字にすると、3つのことが起こります。
- 過去と比べられる。先月は5点、今月は7点、と変化が目に見える
- 判断が正確になる。「良くなった気がします」ではなく、動いた幅が分かる
- データとして集められる。同じ聞き方を続ければ、後から再現性のある解析ができる
3つ目が、私が数字にこだわる一番の理由です。エビデンスがない領域だと申し上げました。ないのであれば、作るしかありません。そのためには、同じ物差しで測り続けた記録が要ります。
体重計に似ているかもしれません。「最近太った気がする」では、何をすればいいか決まりません。毎朝同じ体重計に乗るから、増えたのか減ったのかが分かり、手が打てるようになります。
数字が良くても、戻さないことがあります
誤解のないように申し上げますが、私は数字だけで決めているわけではありません。
スコアが基準に届いていても、生活のリズムが就業の時間帯に合っていなければ、まだ早いとお伝えします。逆に、数字が少し足りなくても、他の条件が揃っていれば復職可とすることもあります。
数字は、話を始めるための共通の言葉です。決めつけるための道具ではありません。
いちばん難しいのは、ご本人に納得していただくことです
ここからが、この仕事のいちばん難しいところです。
休職の延長が必要だと判断する場面では、ご本人が復職を強く希望されていることが、非常に多いのです。早く戻りたい。周りに迷惑をかけている。収入も心配だ。どれも、当然のお気持ちだと思います。
そこへ産業医が「まだ早いです」とだけ伝えたら、どうなるでしょうか。
理解を得られないまま、話がこじれます。「産業医に止められた」という記憶だけが残り、会社との関係まで悪くなります。私は、これを避けなければならないと考えています。
判断を伝えることと、納得していただくことは、別の仕事です。
私がお伝えしていること(一部だけ)
私が面談でお伝えしているのは、要するに 「今、延長しておくことの利益」 です。
ひとつだけ例を挙げます。私の経験では、2回目の休職は150日ほどと、1回目より長くかかります。そして休職できる期間には就業規則で上限があり、多くの会社では、2回目は前回と通算される決まりになっています。
つまり、無理に戻って再発すると、休職できる期間を使い切ってしまい、そのまま退職に至ってしまうことがあるのです。
私はこれを、脅すためではなく、私自身が心配していることとしてお伝えします。「そこがいちばん心配なんです」と。
そのうえで、では今なにをすればよいのかを、具体的な手順としてお渡しします。ここが腑に落ちたとき、多くの方が「話してよかった」とおっしゃってくださいます。
ここから先を、あえて書かない理由
面談の進め方そのものは、この記事には書きません。
理由をはっきり申し上げます。このブログは、面談を受けるご本人も読むからです。
産業医が何を見て、どういう順で話を進めるのかを先に知った状態で面談に来られると、面談が本来の役目を果たせなくなります。それは、ご本人にとっても良い結果になりません。
隠しているのではなく、お伝えする場所を選んでいます。人事のご担当者には、無料のご相談の場で、手順まで含めてすべてお話ししています。
人事の方が、明日からできること
産業医に渡す前の段階で、人事の方にお願いしたいことを3つ挙げます。
- 復職の希望が、いつ・誰から出たものかを記録しておく。ご本人からか、主治医からか、それとも会社の都合か。ここで見るべき点が変わります
- 勤怠のデータを揃えておく。休職前の残業時間、欠勤の入り方。面談だけでは、職場で何が起きていたかは見えません
- 「戻れるかどうか」を人事だけで判断しない。医学的な評価は産業医に、最終的な判断は会社に。この線引きさえ守っていただければ、大きな事故はかなり防げます
なお、休職・復職の最終的な判断を行うのは会社です。産業医は医学的な意見を述べる立場であって、決定する立場ではありません。
本記事の内容は一般的な情報提供であり、個々の状況に応じた対応は主治医・産業医等の専門家にご相談ください。症状や経過には個人差があります。
よくあるご質問
主治医が「復職可」と書いていても、産業医が休職の延長を求めることはありますか?
あります。主治医の診断書は極めて重い根拠ですが、主治医は職場の業務量や勤務時間帯までは把握していないことが多く、産業医は就業できる状態かどうかという別の角度から意見を述べます。ただし最終的に決めるのは会社です。
復職の判断で、産業医は何を見ていますか?
私は主に睡眠と食欲を見ています。うつ病が良くなりきらないときに残りやすい症状だからです。「眠れていますか」ではなく10点満点の数字で伺い、前回と比べられるようにしています。ただし数字だけで決めることはなく、生活リズムが就業の時間帯に合っているかもあわせて見ます。
休職・復職の最終的な判断は誰が行いますか?
会社です。産業医は医学的な意見を述べる立場であって、決定する立場ではありません。人事だけで医学的な評価を行わず、産業医の意見を踏まえて会社が判断する、という線引きが大切です。
